<ラリー・クライマス>
ラリー・クライマスは1949年8月27日シカゴの生まれ。 小さい時はいわゆるポピュラー・ミュージックに興味を持ち、 やがて、クラシックにも惹かれるように。9歳でアコーディンオンを、 13歳でクラリネットをそれぞれ始め、ハイ・スクールに通う最後の年から サクソフォンをプレイするようになる。 技術の向上を目指したラリーはカレッジ在学中に、個人的なレッスンを受け、 当時のお気に入りアーティストとして、スタン・ゲッツとデクスター・ゴードンの 名前を挙げている。  70年代初頭から地元シカゴで本格的な活動をスタート。 まずは、The Outfitというソウル系のショー・グループでプレイ。 ホーンを加えたこのバンドはデトロイトでも積極的なライヴ活動を行い これが評判を集める。 その実力に目を付けたモータウンが、全員白人ということを全く気にせず 彼らと契約。グループ名をパズル(Puzzle)とした彼らは1973年にアルバム「 Puzzle」で 正式デビュー。ちょうどその頃、モータウンのオフィス移転があり、それに伴い、 彼らもLAに移住。新しいチャレンジがそこからスタートするのだった。 彼らは、4リズム(ドラムス、ベース、ギター、キーボード)に、 ホーン2人を加えた6人編成(2ndではホーンがさらに1人加わり7人編成に)で ラリーをして『グループ:シカゴに通じる強力なインストゥルメンテーション』が 大きな売りになっていた。また、ヴォーカルとドラムスを担当していたのが ジョン・ヴァレンティ(ジョン・リヴィグニ)−−後にリリースする2枚のソロ作 で AORファンのハートを虜にした人−−だったことから、その後もマニアから静か な 注目を集めている。パズルは1974年には同じくモータウンからその名も 「The Second Album 」をリリースするが、2枚のアルバムとも特に大きなセールス は 記録できず、やがてグループは解散。ラリーはLAのスタジオ・シーンでいろいろ な セッションの仕事をするようになる。その数は膨大なもので挙げていくのはきりが ないところだが、その初期のレコーディングの中で最もエキサイティングだった 1枚として、今は亡き名ジャズ・ドラマー:トニー・ウィリアムスのアルバム 「Million Dollar Legs」(1976年)を挙げている。  その後、デヴィッド・ガーフィールドと出会い、彼が主宰するグループ: カリズマに参加。そのファミリーの一員として今日まで20年以上、様々な演奏を 披露してきたことは改めて言うまでもないところだ。特に、そのカリズマとして 行った87年の来日公演は大きな衝撃となり、後にレコード化もされている。  一方でラリー・クライマスは自身のソロ作の準備に着々と取り掛かる。コンポー ズ、 プロデュースも積極的に手掛け、その発表の機会を伺った。結局その完成までには 10年以上という長い年月が経ってしまうが、逆に言えばそれらはラリー・クライマ スの 音楽人生における1つの歴史そのものであり、そのアルバムには「Retro-spec(t)」 というタイトルが付けられた。 『過去の出来事や状況を振り返る、Retro-spec(t)にはそんな意味があるんだ』。  オープニングを飾る爽快なナンバー<Bowls>は、元々カリズマ用に作られたもの だったが今回のソロ作で再演することを決定。1980年に録音されたリズム隊を そのまま生かし、その他のセクションを全て一新するというユニークなアプローチ を 試みた。ドラムス&ベース以外の各パートを差し替え、そこに90年代後半の スリリングなヴァイブを上手くインプットしている。 その他にも、1978年に書いた曲が出てきたり、逆に90年代半ばに書いた曲も全体の 半数はある。また、お馴染みマーヴィン・ゲイの<What's Going On>を取り上げて みたり、それらはまさに"Retro-spec(t)"そのもの。その時間の経過をラリー自らが 楽しんでいる感じがする。  ジャンルで括られることを決して好まないラリーは、本作のサウンドに関しても 聴く人がそれぞれの尺度で判断してくれれば良い、と語る。ドライヴ感溢れるロッ ク・ チューンも、4ビート系のフリーなインプロヴィゼーションも、ソウル・バラード も、 ボッサ・タッチのサウンドも全てが彼の世界であり、各曲毎にテナー、ソプラノ、 そして時にバリトン・サックスを巧みに使い分ける。 そして、それらはプレイヤーとしてよりも、総合的なアーティストとしての 大きな主張であることを忘れてはならない。  アメリカでは昨秋リリースされ、約半年遅れでここ日本でもリリースされること に なったこの「Retro-spec(t)」。日本盤のみのボーナス・トラックが2曲収められる が、 そのうちの1曲は87年6月に行われたカリズマでの日本公演から、完全未発表曲の <Heavy Resin>が嬉しい初登場。メンバーは、ラリー・クライマス、デヴィッド・ ガーフィールド、マイク・ミラー、ネイザン・イースト、カルロス・ヴェガ、 レニー・カストロという鉄壁の布陣になっている。